───何度目だ?
「はっ!?」
突如 襲ってくる強い悪寒と殺気。
それによって全身の毛が逆立った少年は、立ち止まると同時に勢い良く振り返った。
(な、何だ……今のは……?)
誰かの声が聞こえたような気がして周囲を見渡すが、今この路地には自分1人しか居ない。
それなのに、誰かにジッと見つめられているような薄気味悪い感覚がするのは何故だろうか。
念の為に少年は もう一度 辺りに視線を はしらせるも、やはり他に人の姿は無かった。
(……誰も居ないし、気のせいか。クソ、ビビっちまったぜ)
人目を気にするあまり、空耳が聞こえたのだろう。
そう考え、少年は踵を返して再び歩き出す。
だが、今度は後方から視線や声ではなく足音がしてきた。
コツ、コツ、コツと徐々に その足音は少年に近付いてくる。
空耳ではない、確かにハッキリと聞こえてくる それに少年の心が再び ざわつく。
(まさか……さっきのジジイが追いかけて来たのか!?)
こんな事ならもっと痛めつけておくべきだったと苛立ちつつも、男性を振り切ろうと走り出す。
だが彼を追う足音は一行に遠ざからず、それどころか近づいてきている。
(面倒くせー! こうなったらもう一度ボコボコにしてやらあ!)
あんな非力な中年くらい簡単に倒せると思いたち、拳を構えて振り返る少年。
だが彼が見ている方向には誰もおらず、ただ暗闇が広がっているだけだった。
警戒しつつ周囲を見ても、やはり人は居ない。
先程まで聞こえていた足音も聞こえなくなっていた。
けれど、誰かに見られているような得体の知れない不気味な感覚、そして芯まで凍りつきそうな寒さは消えないままだ。
(……気持ち悪い……さっさと帰るか!)
一刻も早く恐怖から逃れたい。
その一心から、少年は駆け足で帰路に つく。
だが、足を進めていた彼の目の前を不意に何かが勢いよく横切り、金属音と共にコンクリートの壁に突き刺さった。