「お前みたいに皆が皆、常に前を向いていられる訳じゃないっ! お前みたいに簡単な人間じゃないっ! ……何も分からないくせに分かったような口をきくなあああっ!!」
グシャッ
シローが懐中電灯を降り下ろすと同時に、何かが潰れるような生々しい音がした。
「…………」
めり込んだ懐中電灯を引っ張り、ゆらりと立ち上がるシロー。
血溜まりの中で倒れている、かつてウシオであったモノを見下ろすシローの顔や腕、身体には大量の返り血がついている。
「……ああ、すっかり暗くなっちまったなあ……早く、あの女を殺さないと……お前の言う通り、過去を忘れる為にも、な」
空を見上げると日はすっかり沈んでおり、夜空で星が輝いていた。
真っ赤な液体が滴り落ちる懐中電灯が壊れていないことを確認し、シローは歩き出す。
「あーっ! 見つけたわよアンタ!」
聞き覚えの無い女の声が聴こえ、シローは足を止めて、声がした方を見やる。
視界に入ったのは、土手の上からシローを指差す佐々木の姿。
「ふう~。まさか帰り道で発見するとはね! ここで会ったが百年目よ!」
どうやら佐々木はシロー探しを諦めて帰る途中、偶然にもシローを発見したようだ。
しかし佐々木のことなど知らないシローは、いきなり現れた彼女に首を傾げるだけだ。
「よくもウチの子を殴ってくれたわね! 謝ってもらうわ……」
大股でシローに近づく佐々木だったが、返り血で濡れた彼の姿を見て表情が固まった。
「……えっ…………血……?」
呆然と呟く佐々木に、シローはニヤリと笑いながら歩み寄る。
シローが動いたことによって、さっきまで隠れて見えていなかったウシオの血濡れた遺体がハッキリと佐々木の目に映った。
「っ!?」
驚きのあまり声が出ない佐々木。
「おや? さっきまでの強気な態度はどうした? すっかり震えているじゃないか」
全身を震わせ、目に涙を溜めながら立ち尽くす佐々木の前に立つと、シローは舌舐めずりをした。
─逃げないと
そう思っていても、佐々木の身体は石になったかのように重く固く、まるで動かない。
