いかにもシローの気持ちが分かるような口ぶりのウシオだが、彼が言葉を発する度にシローの心にどす黒い感情が溜まっていく。
「……おいウスノロ……お前が家を失った経緯は何だったかな……?」
「定年後に競馬でスッちゃって、キレた女房に追い出されたんです」
何かを堪えるように絞り出されたシローの言葉に、ウシオはのほほんと答える。
「…………いい加減にしとけよ…………お前なんぞに俺の気持ちが分かってたまるか……分かられたくもない!! 二度と軽々しく、そんな口をきくなよ!」
懐中電灯をギリギリと握り締めながら叫ぶシローだが、ウシオはにこやかに笑っているままだ。
「シローさんだって本当は1人は嫌なのでしょう。心の中では誰かを信じたいという思いが残っている筈です。それが素直な気持ち……その気持ちに従ったらいかがです?」
ウシオに悪気は無く、妻に浮気という裏切りをされた自分ならシローの気持ちが分かると自負している。
しかし、彼は気付いていない。
良かれと思って発している言葉が、逆にシローを追い詰めていることに。
決してウシオは悪い人間ではなく、前向きでポジティブな性格だ。
だがポジティブが過ぎると、他者の気持ちを考えずに独りよがりの励ましとなる。
今のウシオのように、知らず知らず相手を傷つけてしまうのだ。
「……何が分かる…………お前なんぞに…………何が……!」
自分の過去を軽んじられたようなバカにされたような――そんな気がしたシローはウシオに激しい怒りを覚える。
「分かりますよ! 俺だって女房に裏切られたんですから」
「お前の妻と俺の妻を一緒にするなっ!! お前のように軽い裏切りじゃない! 俺は奴に人生を滅茶苦茶にされたんだ!!」
喉が潰れそうな程の大声を出すシロー。
─頼むから、もう何も言わないでくれ
─それ以上言われたら…………もう……抑えられなくなる!
荒い呼吸をしながら胸を押さえる。
「……シローさん。過去は過去、もう終わったことですよ。俺みたいに嫌なことはパッと忘れましょうや。その方が楽だし、楽しいですよ」
人の良い笑顔を浮かべながら紡がれたウシオの言葉を聴いた瞬間、シローの中の何かが音を立てて崩れ去った。
