─奴を殺せば、俺は過去から解放される
懐中電灯を持つ手に力が入り、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あっ、居た居たシローさん」
不意に聴こえてきたしわがれ声に、シローが眉を潜める。
(チッ……こっちに来んなクソッタレ)
声の主――ウシオの足音が近づいてくるのを聴きながら、シローは心中で悪態をつく。
しかし、ウシオはそれを知らずにシローの前に立って、ニッコリと笑った。
「ふう……やっぱりここに居たんですね。今日は何だか元気が無いようでしたが、どうかしたのですか?」
「……………………」
ウシオの言葉に無言で返すシロー。
─お前と話すことなど何もない
そう思いながらウシオを睨むシローの全身からは、あからさまな嫌悪オーラが滲(にじ)み出ている。
そのオーラに気づいているのかいないのか、ウシオは苦笑を浮かべながらシローの肩にポン、と手を置いた。
「馴れ馴れしい! 触るな!」
肩に置かれたウシオの手を、シローは汚い物のように乱暴に振り払う。
しかし、それでもウシオの表情は変わらない。
「まあまあ、そんなに強がらなくてもいいじゃないですか。シローさんだって、本当は寂しいのでしょう?」
「ハア?」
まるで意味が分からないウシオの言葉に、シローが間抜けな声を出す。
「マリコさんから全てをお聴きしました……ご家族に裏切られ、捨てられたことを……」
シローの眉がピクリと動いた。
「このことが原因で、シローさんは人を信じられなくなったのでしょう? 確かに気持ちは分かりますが、それは極端すぎますよ」
─気持ちは分かります?
「皆がシローさんの家族のように悪い人ばかりじゃありません。俺達は仲間なんですから、信用して下さい」
─何だコイツ
「俺も女房(にょうぼう)に浮気されたことがあるから、シローさんの奥さんに裏切られたショックは分かるつもりです」
─新手の嫌がらせか?
「マリコさんは同じ立場にならなきゃ気持ちが分からないと言っていましたが、俺も同じような立場ですよね。だからシローさんの苦しみが分かるんだと思います」
