「絶対に殺すっ!! あのクソガキ、絶対に殺すううぅ!!」
「お母さん、落ち着いてってばあ……先生が殺すとか言っちゃダメだよ……」
涙目で騒ぐ佐々木を宥める玲二。
あのチョップの後、玲二は黒斗に平謝りして、ぶちギレた佐々木を引っ張り逃げるように立ち去って行った。
未だに佐々木は黒斗への怒りが収まらないようで、物騒な言葉を口に出しながら歩いている。
「だいたい期待させておいて下手って何よ!! そして知らないって何よ!! 少しは知ってるとは言えないの、あのガキは!!」
「知らないのに知ってると言えって……無茶苦茶だよ……」
額に手を当てて、疲れた様子を見せる玲二。
「それに……兄貴の言う通り、こんな絵じゃ……」
「こんな絵じゃ何よ!?」
「……何でもないです、すいません」
佐々木の気迫に負けて、出かけていた言葉を飲み込む。
ちなみに佐々木が描いた、へのへのもへ顔はシローの似顔絵である。
やはり息子を理不尽に殴ったシローを許せなかった佐々木は、休みを利用して彼を探し回っているのだ。
別に佐々木はシローを訴える訳ではない。
佐々木は性格上、気になることやモヤモヤしたことを残しておきたくない質(タチ)であり、息子を殴っておきながら謝罪もしなかったシローにキッチリと謝らせておきたかったのだ。
「お母さん、別に良いじゃん……もう終わったことだし」
「良くないわよ! 悪いことした人は謝らせないと私の気が済まないの!」
こればかりは玲二がいくら言っても譲る気は無いようだ。
「……オレ、今日は洋介の家に行く予定があるんだけど」
「別にいいわよ、私は1人でも探すから。貴方は好きな所に行ってなさい」
「…………」
やはり引く気が無い様子の佐々木を見た玲二はこれ以上、何を言ってもムダだと悟り、諦めた。
「……じゃあ、オレ洋介の家に行くけどさ…………お願いだから騒ぎを起こさないでね?」
「言われなくても分かってるわよ! アンタこそ、ボーッとしてて車に跳ねられるんじゃないわよ」
鼻息を荒くして、張り切った様子で歩く佐々木の背中を玲二は見送る。
「お母さんも一度こうと決めたら曲がらない女だなあ……ハア……変なことにならなきゃいいけど」
すぐ頭に血が登る佐々木を心配しながらも、玲二は洋介の家を目指して歩き出す。
─あの時、もっとしっかり止めていれば良かった
─オレもお母さんと一緒に居れば良かった
後に、こんな後悔の念を抱くことになるとは、今の玲二は知るよしも無かった――
