「……と、アタシが知ってるのはコレで全部さ」
「……………………」
マリコが語ったシローの壮絶な過去を聴き、ウシオ達は言葉を失った。
「そ、そんなことがあったんだねえ」
「妻には金を持って逃げられて、息子にも見捨てられて……こんなんじゃ誰も信じられなくなんのも納得だよ」
顔を見合せる老人達。
「……でも、極論すぎますよ……奥さんに騙されたからって誰も信じないなんて」
ポツリと呟くウシオ。
「……アンタは体験していないから、そんなことが言えるのさ。シローさんが感じた辛さや悲しみは、同じめに合わなきゃ分からないよ」
マリコの言葉に、ウシオは何も答えられなかった。
******
住宅街
(……あのアマ……今日も旦那が汗水流して稼いだ金を遊んで使う気か)
電柱に隠れて、今日も奈美子の様子を窺うシロー。
奈美子が纏っているドレスは昨日と違い、黒色のロングドレス。
赤いドレスと比べれば地味な色だが肌の露出度はこちらの方が高い。
胸元は大きく開かれていて、背中部分も全開だ。
(ケッ、年を考えろってんだ。さて……今日はクラブか? それともホストか?)
心の中で悪態を吐きつつ、尾行を続ける。
繁華街までやって来た奈美子と彼女をつけてきたシロー。
今日、奈美子は特に行く店を決めていないのか風俗(ふうぞく)店ばかり建っている通路をブラブラしている。
「ねー、ねー。そこのキレーなおねーちゃん」
二十代くらいの茶髪の青年が奈美子を呼び止めた。
「あら、おねーちゃんって私?」
「他に誰が居るんですかあ?」
「やあねえ、こんなオバサン捕まえといて!」
「ええっ、スッゲー若く見えるんすけど!」
お決まりの会話を交わした後、青年が「ちょっと遊んでかない?」と奈美子と肩に手を回して、自分の店に連れていった。
顔はソコソコ良い青年に誘われたからか奈美子はどこか誇らしげで、客を捕まえられていない他の店のキャバ嬢を見下すような笑みを浮かべていた。
(ガキに気に入られただけで勝ったつもりかよ。あのガキだってテメーに惚れたんじゃなくて、良いカモだと思ったんだろうよ)
つまらなそうにシローは踵を返した。
奈美子が一度ホストに入ったら、帰りは日が昇り始める時刻になる。
さすがのシローも奈美子が出てくるまで店の前で待っている訳にもいかないので、他の場所で時間を潰すことにした。
とはいえ、行く宛も入れる店も無いのでシローはどうしようかと考えながら歩く。
