シローは昔、自営でマッサージ屋をやっていた。
始めた頃は客も少なく、話題にもならず、近所の住人ばかりが訪れていたが、負けん気の強いシローは挫けることなくがむしゃらに頑張っていた。
やがて常連が出来て、その客がクチコミでシローの店の噂を広めていき、マッサージの腕前が良いだけあってシローの店は徐々に人気が高まっていった。
雑誌やテレビにも取り上げられて知名度が一気に高まり、客が増えるにつれて収入も増えていく。
やがて妻が出来て、子供も出来て、孫も出来た。
優しい妻、甘えん坊な息子、気の良い息子の嫁、可愛い孫息子。
暖かい家庭を持ち、仕事も順調で収入もたっぷりある。
この頃のシローは幸せの絶頂にあった。
だが、幸せというのは得るのは難しいというのに、失うことは容易(たやす)いもの。
彼の幸せは、たった1つの病によって粉々に打ち砕かれた。
腱鞘炎(けんしょうえん)。
親指を中心に、何本かの指が不自由になってしまったのだ。
医者からは安静にするように、また指に負担がかかると再発する可能性があると言われた。
再発すれば症状は悪化し、後遺症が残る可能性がある――そう言われて、シローは指を使うマッサージ屋を辞めることにした。
マッサージ屋じゃなくても他に仕事はあるし、優しい家族なら分かってくれる。
そう信じて疑わなかった。
それが間違いだと知らずに――
