「アンタでしょ!? 毎日毎日、うちのゴミ捨て場を漁ってんのは! 汚いし散らかるし、息子が見たら悪影響になるじゃない!」
「すいません……もう、この辺りには来ないので勘弁して下さい…………」
身体を震えさせながら謝罪する老人だが、主婦から怒りは消えない。
「確か前にも言ってなかった? 口ばっかりで、ちっとも約束を守ってないじゃないの!!」
「あああ、すみませんすみません!」
老人がその場に跪(ひざま)ずいて土下座をした。
「謝れば何でも許されると思ってんの!? ホームレスだか何だか知らないけど、調子にのるんじゃないよ!」
土下座を続ける老人へ、主婦は容赦なく手に持っていたホウキを叩きつけた。
「あ、ぐぅっ」
「本当に汚(けが)らわしい! アンタなんか居なくなればいいのよ!」
バシッ、バシッと何度もホウキを叩きつける主婦。
そんな2人のやり取りを見て、内河にある提案が浮かんだ。
「いくら何でもやり過ぎだよな……ここで俺が止めれば、俺は暴力を止めた善人になる訳だよな……そしてその話が広まって橘の耳に入れば、橘も見直してくれる!」
不純な動機で老人を助けることにした内河は、主婦のホウキを降り下ろす手を掴んで止めた。
「まあまあ落ち着いて奥さん! どんな理由があっても、暴力はよくないよ!」
「ハア? 何よアンタ?」
「通りすがりの正義感が強い学生です」
かっこつけながら言う内河。
「……っしゃあ、決まった! これで、このオバハンを何とか撃退(げきたい)してオッサンに感謝されれば……」
心の声を呟きながら老人に振り向く内河。
が――
先程まで土下座をしていた老人は、忽然(こつぜん)と姿を消していた。
「は……オッサン? おーい、暴力から助けてやった俺への感謝はー?」
あんぐりと口を開けたまま立ち尽くす内河。
「アンタのせいで逃げられたじゃない! 今日こそ、お灸(きゅう)を据えてやろうと思ったのにっ!!」
「ご、ごめんなさーい! アイムソーリー!!」
怒りの矛を向けられた主婦によって、内河はこってりと絞られるのだった。
