如月高校 2年A組 教室内――
もうじき朝礼が始まろうとしているが、全部で34人いるA組の生徒のうち、2人が教室に居なかった。
1人は内河。
この時間になっても姿を現さないということは欠席か遅刻だろう。
もう1人は大神。
しかし彼が居ない理由は欠席でもなければ遅刻でもない。
恵太郎を連れ去った翌日――彼は転校したことになっていた。
竹長一家に使った記憶を操る力によるものなのだろう。
誰一人として急に転校が決まった大神に不審感を抱く者など居なかった。
「大神くんも居なくなってもうたな……結局、大神くんの謎は解けへんかったわ」
今は誰も使っていない窓際の一番後ろの席を見ながら、鈴が何気なく呟く。
「…………今は大神の話をするな」
「何や? ケンカ別れでもしたんか?」
眉間にシワを寄せながら言った黒斗に鈴が苦笑いしながら訊(たず)ねるが、彼は不機嫌な顔をしたまま何も答えない。
「もう……確かに仲は悪かったけど、同じクラスの仲間やったんやで? 後味悪い別れ方しおってからに」
「……なに、また相見(あいまみ)える時が……」
ガラガラガラ
紡がれていた黒斗の言葉尻は、やかましく開け放たれた扉の音によって掻き消された。
