「があっ…………」
フラフラと後ずさり、膝から崩れ落ちそうになるが歯を食い縛って堪える。
「……やめておけ。お前は俺に勝てない……それ以上足掻いても哀れなだけだ」
そう呟く黒斗の首や胸の傷はみるみる内に塞がり、飛び散った血飛沫も彼の血液だけが消え去った。
「……チックショウ…………チクショウ……」
伸也の目から涙が流れ出した。
「……何で、僕がこんなめに…………僕はただ、人間の屑を片付けただけじゃないか! 他の無意味な殺人を犯す愚かな犯罪者とは違うっ……!」
「……………………」
血と唾を飛ばしながら紡がれる伸也の言葉を黙って聞く黒斗。
─見苦しくても何でも良い
─この死神に、僕のことを殺すほどの罪人じゃないと思ってもらえれば良い
死ぬ訳にはいかないという一心から伸也は犯行の正当性を訴えた。
罪人であることに変わりはなくとも、命があればいいのだ。
「この女はっ、自分が良ければ……自分が楽しければ他人がどうなってもいいと考えてる屑だ! 僕だけじゃなく、親しい友人だって己の利益の為に犠牲にした!」
未だに幻覚に苦しみ、無様な格好で暴れる芽衣を睨みながら言葉を続ける。
「自分の為に関係のない人間を騙して破滅させる! こんな女、死んだ方が世の中の為だろ!!」
「それはお前も同じだろう」
低い声音に伸也の肩がビクつく。
「お前も、復讐の為に関係のない人間を騙して犠牲にしてきた…………この女と一緒じゃないか」
「……僕が……? コイツと同じ……?」
“同じ”という言葉に、伸也は胸焼けに似た嫌な感覚を覚えた。
