口内から鼻にかけて広がる鉄の味。
眼鏡ごとぶつけてしまったせいで、他の箇所より痛む目元。
鼻の穴から流れる温い液体の気持ち悪さ。
「ひっ、ぐぅ……」
痛みのあまり生理的な涙を流す伸也。
「いっ、たい、誰がっ……!」
鼻を押さえながら伸也は、自分を襲った人物へと振り向いた。
しゃがみこんでいる姿勢の為、まず視界に映ったのは漆黒の布から伸びている黒い足。
徐々に視線を上に上げていくと、漆黒のコートを身に纏(まと)った黒斗の顔が見えた。
「君は……確か、恵太郎の友達の…………月影くん!?」
思わぬ人物の登場に驚愕(きょうがく)する伸也。
「き、君が僕を扉にぶつけたのか!? そもそも、何でココに!?」
矢継ぎ早の質問をするが、黒斗は何も答えずに伸也を見下ろしている。
誕生日パーティーで会った時とは違う、何の感情も込もっていない冷めた眼差しに、伸也の全身の毛が逆立った。
