午後23時4分
(……そろそろ、約束の時間か)
自室で横になっていた伸也は身体を起こし、パジャマから外出着へ着替えると部屋を出て、忍び足で廊下を歩いた。
「兄ちゃん」
背後から恵太郎に声をかけられ、伸也の心臓が一瞬跳ねた。
トイレに起きたところを出くわしたのか、物音を聞きつけたのか――どちらにしろ最悪だ。
「……出掛けんの? 今日、仕事休みじゃなかった?」
「ちょっと、用事があってね」
「……そっか」
振り返らずに伸也が言うと、恵太郎はそれ以上追求してはこなかった。
「兄ちゃん……幸せになれよ」
「えっ? うん?」
恵太郎の言葉の意味が理解出来なかったが、とりあえず伸也は頷き、逃げるようにその場から去って行った。
(……これでいいんだ。兄ちゃん、相手を大切にしろよ……)
遠い目をしながら、恵太郎は心の中で伸也にエールを送った。
