夕陽も沈み始めた頃――、恵太郎は自室のベッドで仰向けに転がり、グラビアモデルのポスターが張られた天井を仰(あお)いでいた。
(…………そうか。兄ちゃんは、もう俺だけの兄ちゃんじゃないんだ)
黒斗達から連絡を受け、伸也に恋人が居ることを知らされた恵太郎は酷く落ち込んだ。
普通なら兄に恋人が出来たことを喜ばしく思い、祝福の言葉を送るべきなのだろう。
しかし、恵太郎は大好きな兄が急に遠い存在になったような気がして素直に喜ぶことが出来なかった。
伸也は面倒見の良い兄だった。
普段は優しく、一緒に遊んだりふざけたりしてくれるが、恵太郎が間違ったことを言ったりやったりすれば、面と向かって叱ってくれる。
友達のような父親のような兄。
いつかは自分も兄も結婚して自分の家庭を持ち、子供の頃と同じようにベッタリくっつくことが出来なくなる時が来るとは分かっていたが、いざその時が来るとヘコむものである。
(…………落ち込んでばかりいられねえ。兄ちゃんが幸せなら俺も幸せなんだから)
頬を叩いて気合いを入れ、上半身を起こす。
コンコン
すると扉をノックする音が響き、恵太郎は「誰だ?」と思いつつも返事をして、部屋に入るよう促した。
ガチャ
扉を開いて現れたのは伸也。
どうやら恵太郎が沈んでいる間に帰って来ていたようだ。
「に、兄ちゃん!?」
思わぬ訪問に驚き、つい姿勢を正す。
「昼間、様子がおかしかったから大丈夫かと思って……何か悩みでもあるの?」
「だ、大丈夫だって! 兄ちゃんが気にすることじゃないし!」
「…………そう?」
自分こそが弟の悩みの種であることも知らず、伸也は首を傾げる。
「……なら、いいけど。何かあったら、ちゃんと言うんだよ」
そう言い残し、伸也は恵太郎の部屋を出ていった。
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを確認すると恵太郎は深い溜め息を吐くのだった。
