普段は人の気持ちなんて探ろうとも分かろうともしない恵太郎だが、兄である伸也にはグイグイと踏み込んでくるのだ。
そして、伸也が何か秘密を抱えている時も見抜いてしまう。
「……隠しごとなんかしてないよ。気のせいだよ」
どうにか誤魔化そうと、背中に冷たい汗を流しながらも平常心を保つ。
「……でもさあ」
「恵太郎は何も心配しなくて大丈夫だよ、僕を信じて」
伸也は恵太郎が安心するような言葉を紡ぎ、小ぶりな頭に手を乗せて撫でた。
「……分かったよ、兄ちゃん信じる」
恵太郎がそう言うと、伸也はゆっくりと手を離した。
やや名残惜しそうに恵太郎が片手で、己の髪の毛を撫でる。
そんな弟の仕草を見て、伸也の胸がチクリと痛んだ。
犯罪に手を染めてしまったとはいえ、恵太郎をはじめとする家族達を大切に思う気持ちはあるし、嘘をついて欺(あざむ)いていることに、良心の呵責(かしゃく)もある。
しかし、もう後戻りは出来ない。
ここまで来たら、何が何でも目的をやり遂げるしかないのだ。
「……恵太郎は、道を踏み外しちゃダメだよ」
「えっ? 何か言った?」
ポツリと呟かれた伸也の言葉は、恵太郎の耳に届かず、虚空(こくう)へと消え入った。
「ううん、何も。じゃあ、ちょっと外に出掛けてくるね。3時までには帰るよ」
そう言うと伸也は早足でキッチンを出ていき、そのまま自宅を後にするのだった。
「…………やっぱり、怪しい」
1人残された恵太郎は、訝しげな表情で呟くと携帯を取り出し、メールをうち出し始めた――。
