恵太郎の父親と別れ、目的地に辿り着くと、鈴が扉をノックした。


「どうぞ」


ぶっきらぼうな応答が聞こえると、鈴は扉を勢いよく開いて中に足を踏み入れた。


「こんちはケイちゃん! 久しぶりやなー!!」

「おー、久しぶりー。あ、やべっ、くそっ」


鈴とは対称的にテンションが低い恵太郎は、椅子に座ってテレビゲームに勤しんでいた。

どうやら苦戦しているらしく、せっかく来てくれた友人達に見向きもせず、画面に釘付けとなっている。


「適当に座っててくれ、今これセーブして切るから。……あー、また弾かれた!」

「あっ、ケイちゃんアカンて! ソイツ、剣よりショットガンが有効やで!」


どうやら鈴もやったことがあるゲームらしく、恵太郎の隣に立ち、攻略のアドバイスを始めた。


「ゲージあらへんの? デビルトリガーした方がええと思うけどな」

「マジで!? 仕方ない、最後のデビルスター使うか……さあ、勝負だ!」

「頑張れケイちゃん! あ、デカイ一撃来るで!」

「……………………」


鈴と恵太郎の会話に入れず、1人蚊帳(かや)の外の黒斗。

動き回るのも失礼なので、とりあえず適当に座って部屋の中を見渡す。


乱雑に収められた漫画本、辺りに散らばる脱ぎ散らかした服、ゴミ箱に入り損ねたティッシュ。

恵太郎の雑把な性格を反映してか、部屋の中はお世辞でも綺麗とは言えない散らかりようだった。


(……母親も掃除くらいしろよ)

頭の中を蝶々でも飛んでいそうな恵太郎の母親を思い浮かべる。

しかし、あの母親が綺麗に整理整頓している姿がどうしても思い浮かべない。

それどころか先程の、外見にミスマッチな仕種と喋り方を思い出し、身の毛がよだつ。


(……不快なことは忘れよう)

頭を振って母親の姿を消し去る黒斗。


次に目に止まったのは、棚の上に置かれた額縁だ。

中に入っている写真は一家勢揃いのものであり、今より幼い顔つきの恵太郎が映っている。

背後に学校が見え、恵太郎が学ランを着ていることから中学の入学式に撮った一枚だと推測される。


 不機嫌そうな顔をしている童顔の恵太郎。

何故か口をタコのように突き出している母親。

大口を開け、磨かれていない黄色い歯が丸出しの父親。

そして、おそらく兄弟なのであろう、やはり恰幅の良い眼鏡を掛けた地味な青年。



(…………デブ一家じゃねえか)



恵太郎以外、体が横にデカい竹長家に黒斗が抱いた感想であった。