他愛ない会話をしている間に、恵太郎の家へ辿り着いた。

赤い屋根が特徴的な、2階建ての一軒家。

鈴は何度か来たことがあるが、黒斗は初訪問である。



ピンポーン



「こんちはー、橘です!」


インターホンを鳴らし、鈴が元気よく言うと数秒の間を置いて扉が開かれた。


「いらっしゃーい! 鈴ちゃん久しぶりねえー!」


扉が開けて現れたのは、恰幅(かっぷく)が良い金髪のお団子頭の主婦。

厚く塗られた白塗りと、紫色の派手なアイライナーと赤い唇が真っ先に目を引いた。


「オバさん、お久しゅう! 今日はお邪魔させていただきます!」

「どうぞどうぞ、ゆっくりしていってね! ……あら、貴方ははじめましてね?」


鈴の後ろに立つ黒斗に気付いた恵太郎の母親が声をかけてきた。

「……月影 黒斗です。はじめまして」

「まあまあ貴方が黒斗くんね! やだ、イケメンじゃな~い! オバさんと付き合ってくれない?」

「……遠慮しておきます……」

「やあねえ、冗談よ! 照れちゃってもー、可愛い!」


独特のテンションと、見た目に似合わぬやたら乙女チックな仕種の母親に鳥肌が立つ黒斗だが、何とか無表情を装うことに成功する。


「まだご馳走作ってる途中なの! 恵太郎の部屋で待っててね!」

「はーい」


家に上がると母親はキッチンに戻っていき、鈴と黒斗は言われた通り2階にある恵太郎の部屋へ向かった。



「おや鈴ちゃん」

途中トイレから、これまた恰幅の良い黒髪の男性が現れた。


「オジさん、お久しゅう」

「相変わらず可愛いねえ、今度デートしないかい?」

「アハハ、考えておきます」

「そうか、嬉しいなあ! ガッハッハ!」


周囲に髭(ひげ)を生やした大口を開けて笑う姿は、まるでゴリラのようだ――と、黒斗は何気に失礼なことを思う。

それに加えて、歯の隙間に引っ掛かっている大きな歯垢(しこう)が下品で気持ち悪く、さりげなく黒斗は顔を直視しないように視線を逸らした。


「で、君が恵太郎が言ってた月影くんか。若かりし頃の私にそっくりな男前じゃあないか」

「……それはどうも」


誉められた筈なのに、黒斗は何故か素直に喜べなかった。