「…………」
みどりはその場に尻餅をつき、血濡れた手で顔を覆い、これからのことを考える。
(……先に刃物を突き出してきたのは、みきほ。私は殺されまいと抵抗した末、みきほを刺し殺してしまった……十分、正当防衛で通るわね)
娘を殺した罪悪感や後悔など、みどりには無かった。
ただ、自分が裁かれないようにするにはどうすればいいのかーーそれだけしか考えていなかった。
(みきほの狂ったような大声は隣の住人にも聞こえているでしょうし、世間体も私の方が遥かに良い。腹に包丁が刺さってしまった後も、みきほは襲いかかってきて、 やむなく私は殺してしまった、ということにしておけば何とかなりそう)
作戦を練り終えると、みどりはゆっくりと立ち上がり、警察を呼ぼうと携帯を取り出した。
(これで、あたしは本当に自由。もう誰にも気兼ねすることなく、誰にも束縛されることなく、誰にも怯えることなく、好きに生きられるの)
真の自由を手に入れたみどりは上機嫌で110番に電話をかけた。
