「は、はぁっ、はあっ」
苦しげに上下する脇腹に刺さったままの包丁。
そこを中心に赤い染みがジワジワと広がっていく。
「あ……ああ……」
揉み合っている間に包丁が、みきほに刺さってしまった。
意図せぬ出来事に、みどりの思考は停止する。
「ま、ま……」
倒れているみきほが、こちらに視線を向けてきた。
「まま……いたいよ、いたい……たすけ、て……」
「っ!」
血濡れた手を伸ばしてくるみきほを見て、みどりは携帯を取りだし、救急車を呼ぼうとする。
がーー、番号を打ち込む途中、みどりの脳裏にある考えがよぎった。
─今、ここでみきほを助けて良いの?
─みきほは私に殺意を抱いている。
─救急車を呼んで助けたとしても、またいつか、私を殺しに来るかもしれない。
─夫の次は、娘に怯えて生きていくの?
─せっかく自由を手に入れたのに、これじゃあ……前と変わらないじゃない!
