「憎い憎い憎い!! 許せない許せない許せない!! 何でアンタが母親なのよっ!! こんなクズが!!」
何とか振り払おうとするみきほだが、左腕は使うことが出来ないうえ、足の痛みもあって押されていく。
敵わないと分かっているが、それでもみきほは抵抗を続ける。
「中途半端に優しくするからっ!! 最初から冷たかったら、あたしはアンタに依存せずに済んだのに!!」
─暴力を振るう父親は、みきほにとって最大の恐怖であった。
─友達も居ない、兄弟も居ない。
─心の拠り所は、母親だけだった。
─だから母が大事で大切で。
─今は冷たくされても、いつか昔のように戻ってくれると信じていた。
─信じていた、のに。
「あたし、ママのこと好きっ!! だからこそ許せないのよっ!! あたしよりパチンコを優先させたこと! あたしの身体を売ったこと! あたしに寂しい思いをさせたこと全部!! あたしは……もっと構ってほしかった!!」
「うるさい、うるさいっ!! アンタは自分のことばかりじゃないの! 何で……何で娘にまで束縛されなきゃいけないの!! もう……いい加減にしてええ!!」
渾身の力で、みどりはみきほの右手を振り回した。
グシュ
嫌な音がみどりの耳に届いた。
その音をきっかけに、みどりは冷静さを取り戻し、自分の手を見る。
みきほの右手を掴む、己の手。
そして、みきほの右手に握られた包丁の刃先は、持ち主の脇腹に突き刺さっていたーー。
「う、うぅっ……」
みどりが手を離すと、みきほはフラフラと2、3歩下がり、そのままドサリと仰向けに倒れこんだ。
