赤羽病院 病室内
「着替え、この袋の中にあるから。ちゃんと看護婦さんに言うのよ」
「…………」
ビニール袋を棚の上に置きながらみどりが言うが、ベッドに上半身を起こして座っているみきほは顔を背けたまま応答しない。
みきほは頭に包帯が撒かれ、左腕と右足にそれぞれギプスが付けられている。
「ママ忙しいから、あまり来てあげられないわよ。ちゃんと先生や看護婦さんの言うこときくのよ」
「…………」
やはり、みきほの返事は無い。
溜め息を吐きながらみどりは、みきほの向いている方向に移動し、両腕の袖をこれ見よがしに捲った。
「……昨日のことは、ママ一生忘れないからね」
昨日みきほが強く握ったせいで付いた両手首の痣(あざ)を見ながら、みどりは恨めしそうに呟くと、振り返ることなく病室を出ていった。
扉が閉められた音がすると、みきほはギプスが付けた腕と足を見る。
(……階段から娘を突き落とした人がよく言うよね……)
みきほが意識を取り戻した時には、母が既に病院や世間に“娘が階段を踏み外した”と偽りの真実を話した後だった。
嘘を話しまわった母に吐き気を催す程の嫌悪感を抱いたが、それでも本当に憎みきることは出来なかった。
いつか、昔のような母に戻ってくれるかもしれないと、まだ僅かに信じていたから……。
