「おらっ、降りろ」
車の座席から蹴り落とされ、無様に地面に転がるみきほ。
「…………」
ようやく自由になった震える両手で目隠しを取り、全身びしょ濡れとなった己の身体を見やる。
制服は所々が破られていて、全身はぬるぬるとした液体がまとわりついている。
「……ママが、帰る前に洗わなきゃ……」
痛む身体に鞭を打って立ち上がり、おぼつかない足取りで人目を忍びながら自宅に向かう。
何とかアパートに辿り着いた時の時刻は21時。
みどりが帰ってくるのは23時くらいなので、間に合ったと安堵の溜め息をこぼす。
ギイ……
静かに玄関を開けて、浴場に向かう。
「みきほ?」
その途中、いるはずのない母親の声が聞こえて、みきほの中の時間が一瞬停止した。
ーいつも、この時間には居ないくせに、どうして今日に限って
「みきほ、どうしたのよ、その体」
「……何でも、ない。水溜まりに、転んだの」
母に心配をかけたくない為に、みきほはとっさに嘘をついた。
「………………」
沈黙が続き、みどりの様子が気になって、振り向く。
「……あっ……」
そこに立っていた母は、汚いものでも見るような蔑(さげす)む眼差しで、みきほを見つめていた。
「……そう。さっさと風呂に入りなさい」
それだけ言って、母は寝室へと入って行った。
後に残されたみきほは、へなへなとその場に座り込む。
(……ママに、軽蔑、された……)
声を押し殺し、ポロポロと涙を流す。
みきほにとっては、レイプよりも、大好きな母にあんな目で見られたショックの方が大きかった。
そして、この事件以降、みどりの態度は更によそよそしくなり、ろくに会話を交わすことも出来なくなってしまった。
