「ホラ! 朝からしんみりしない! 早く学校に行こーよ!」

黒斗と鈴の背中を押し出す玲二。


顔は笑っていたが、心の中はどんよりと曇っていた。



有理が自殺したと聞いた時、確かに悲しかった。

いくら酷いことをされたって、元は親友。
亡くなったとなれば、やはり悲しい気持ちになる。



だけど



有理が死んだ時、悲しみよりも安堵の気持ちが強かった。


―これでもう、有理に怯えずに済む


頭に浮かんだのは、真っ先にこの言葉だった。

親友が亡くなったというのに、こんな不謹慎なことを思った自分に激しい嫌悪感を抱き、改めて己が、どれほど薄情で汚い人間なのかを思い知ったのだった。




(……こんなオレだから、神様が罰として絵を描けなくしたのかもね)

ネガティブなことを考えてしまい、頭を振って考えを消す。


(……今は考えないようにしよう。考えれば考えるほど、自分が嫌いになる)



暗い気持ちを吹き飛ばすように、無理に玲二は明るく振る舞う。


「ほら、2人共急いで!」

グイグイ、と黒斗と鈴の背中を押していく。

「ちょ、ちょっと待ってやレイちゃん! あ、あれ!」

「どうした?」


緊迫した様子の鈴の声に反応し、黒斗と玲二は彼女の指さす方向を見た。



そこには、橋の上から川を覗きこむ少女の姿があった。


黒いセーラー服を着ていて、長く綺麗な黒髪はポニーテールで1つに纏めている可愛らしい少女は、無表情のまま川を見つめている。