「……で、昨日、誰に襲われたのかは分からないのか?」
和やかな空気を壊すように、黒斗の抑揚のない言葉が病室に響いた。
「う、うん。俺を刺した人は直ぐに逃げちゃったから顔も分かんない」
昨日の夜……黒斗が有理に罰を与えて立ち去った後、誰かからの通報を受けたらしい警察と救急車が現場に駆けつけ、玲二と有理は病院に運ばれ、そのまま入院となった。
警察から聴取を受けた玲二は、友人である有理と会っていたら何者かに襲われたと嘘の証言をした。
別に有理を庇いたかった訳ではない。
真実が明らかになれば、いずれ洋介の耳にも有理が親友に殺意を抱いていたことが入ってしまう。
信じていた友人が自分を殺そうとしていたと知れば、洋介は深い心の傷を負ってしまう……最悪、人間不信になってしまうかもしれない。
そう危惧した玲二は、真実を隠すことにしたのだ。
玲二の作戦は上手くいき、玲二は通り魔による犯行、有理は死神による犯行として警察は捜査を進めている。
「……そうか」
黒斗は玲二が嘘をついてると分かっているが、追求することなく話題を終えた。
「じゃあ、そろそろ帰るぞ。邪魔をした」
「早よう元気になってな、レイちゃん!」
「うん! バイバーイ!」
手を振る玲二に別れを告げ、黒斗と鈴は病室を後にした。
「レイちゃん、可愛くてエエ子やったな……クロちゃんの舎弟とは思えへんわ」
「余計なお世話だ」
他愛ない話をしながら廊下を歩く2人。
「……そういえばケイちゃん、どうしとるかな?」
死神(黒斗)に罰を与えられ、右足を失った友人…竹長 恵太郎のことを心配する鈴。
「……しばらく会いたくないと言ってたんだ。あっちから連絡が来るまで、そっとしておけ」
「せやな……」
気にかけながらも頷く鈴。
すると、黒斗が突然立ち止まった。
「クロちゃん? どないしたん?」
「……いや、用事を思い出したんだ。橘、先に帰っててくれ」
「分かったわ。ほななクロちゃん! また明日な!」
笑顔で手を振り立ち去った鈴を見送ると黒斗は踵を返し、早足で歩き出した。
