左腕の切断面からは、いくつもの赤黒い血痕が気色悪い音を響かせながら零れ落ち、細胞なのか筋なのか分からない細い線がブラブラと、だらしなくぶら下がっている。
「なんで……おれがこんな目に……」
うわごとのように呟く有理。
「おれは、てんさい、だったのに。ようすけ と、れいじがいなければ……こんなに、じんせいが くるうこともなかった」
虚(うつ)ろな瞳で玲二を見つめる。
「しょせん世の中は才能が全てなんだ。生まれた時から勝負は決まってる。勝ち組と負け組に別れてる」
虚ろだった瞳に、憎悪の炎が宿った。
「玲二っ!!!!」
「ヒッ!」
大きな怒鳴り声に、玲二がビクつく。
「お前らは良いよなあ!! 最初から才能があって勝ち組で、生まれつきの天才で!!」
左腕と右手から血を流しながら激昂する有理が、今の玲二には化け物のように見えた。
「……お前は、生まれ持った才能で全てが決まると本気で信じているのか?」
今まで黙っていた黒斗が、不意に口を開いた。
「そうだ! だから、俺以上に才能がある2人を潰さなければ、俺が1番になれないんだ!!」
血走った目をした有理が叫ぶ。
「……三成と佐々木だって、最初から天才だった訳じゃない。努力を重ねたからこそ、天才と呼ばれるに相応しくなっただけだ」
チラリと、横目で玲二を見やる。
「三成も両腕を失い、1度は挫折した。だが、そこで諦めずに夢を目指して努力をした。お前はどうだ? 自分以上の天才の出現に挫折して、そいつらを越えようと努力はしたか?」
「…………」
―努力などしてない。
―だって、努力したって何も変わらないから
―最初から才能がある奴には、どうやっても敵わない
―だから、潰すしかなかった。
押し黙ったままの有理に、黒斗が続ける。
「“天才とは1%の才能と99%の努力で成り立っている”……偉大なる科学者の言葉だ。1度の挫折で歩みを止め、努力をせずに喚いているだけのお前は……駄々をこねるガキと同じだ」
パリィン
鎌に刺さっていた左腕が砕け散る。
黒斗が踵を返して、数歩進むと空間に穴が開いた。
「“画家になる夢を失う”……。それがお前が受ける罰だ」
振り向かずに言い放つと、黒斗は穴を潜って姿を消した。
「……ハッ……ハハハ……」
乾いた笑いをこぼす有理の傷口が塞がり、あとには不自然な血糊が残った。
「……死神さんは……有理に罰を与える為に来たのかな……?」
遠くから近づいてくる警察と救急車のサイレンを聞きながら、玲二はポツリと呟いた。
