「あっ……ぐぅ……」
ナイフが抜かれた傷口から、大量の血液が溢れ出る。
刺された箇所が急激に熱を帯び、よろめく玲二を有理は押し倒し、馬乗りになった。
「……ゆうり……こ、れ以上……その手を、よごしちゃ、ダメ、だ……」
「うるせえよ。ノロマのグズの癖に、天才の俺様に口答えすんな」
そう言って有理は血で濡れたナイフを大きく振りかぶり、勢いよく玲二へ降り下ろした。
ブヅッ
咄嗟に目を閉じた玲二の耳に、肉が切れるような音が届く。
ベチャッ
数秒の間を置いて、玲二の顔に何かの液体が勢いよく落ちてきた。
「うえっ……ゲェ…ゲホッ……」
鼻の穴に液体が入り込み、むせる玲二。口内には鉄の味が広がっていく。
「……?」
咳が治まり、そっと瞼を開くと、目の前に赤い液体が溢れ出ている物体があった。
「え…………」
よく目を凝らすと、それは物体ではなく有理の右手首だった。
手首から先にある筈の掌(てのひら)は無くなっており、代わりに見えるのは赤黒い肉の側面と、その間に挟まっている白い骨だ。
「…………」
蛇口のように血が溢れている手首を、有理は無言のまま見つめる。
「あああああああああああああッ!!!!」
錯乱したように有理は突然叫びだし、左手で切断面を押さえながら後ずさった。
「なんだよっ!! お、れの……手、どこだ!!」
全身を血で汚しながら後ろに下がっていく有理。
すると何かを踏んづけてバランスを崩し、そのまま倒れてしまう。
