「……と、こんな訳です」
話を終えた玲二はコーヒーを啜り、渇いた口内を潤した。
「PTSDか……まあ、あの様子を見た時、大方そうじゃないかと思っていたが」
「アハハ……兄貴には何でもお見通しだね」
苦笑する玲二。
「6年前の事件……お前ら仲良し3人組を襲った犯人は未だに捕まっていないのか」
「うん……事件は迷宮入り。6年も経った今では、証拠も消えちゃってるよ」
玲二は深い溜め息を吐いた後、半分残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
「オレが兄貴の舎弟になったのは強くなりたいからって言ったよね。オレ、精神的に強くなりたいんだ」
拳をグッと握り締め、言葉を続ける。
「兄貴は真っ直ぐな目をしてる。そんな目をしてる人は揺るぎない信念を持っているからだって、お父さんが言ってた。兄貴の信念はオレには分からないけど、強い意志を持っていることは分かる」
「…………」
「だからオレは、兄貴みたいに強い意志を持ちたいんだ。トラウマを乗り越えられるくらい、強くなりたい。変わりたいんだ!」
「そうか」
そう呟くと、黒斗も残っていたコーヒーを全て飲み干した。
「……兄貴。オレ、変われると思う?」
「知らん。だが本当に変わりたいと思わなければ、お前は変われないままだ。口だけなら、何とでも言えるからな」
すがるような視線を送ってくる玲二に、黒斗はピシャリと言い放った。
「……そ、そうだよね」
俯く玲二。
ガチャガチャ
その時、玄関から物音が響き、2人の視線はそちらに移された。
「あっ、お母さんが帰ってきたのかも!」
パアッ、と笑顔を輝かせて玲二が玄関に向かうと丁度、扉が開いた。
「ふう、ただいま」
「お母さん、お帰りなさい!」
「……?」
玲二が“お母さん”と呼んだ女性の声が、聞き覚えのあるもので、黒斗は首を傾げる。
「兄貴が来てるんだよ! 今、オレの部屋にいる!」
「昨日言ってた、学校の先輩?」
「そうそう! こっちこっち!」
ドタドタと騒がしい音がこちらに近付いてくるのを感じ、黒斗は入り口を見やる。
「兄貴! 紹介します、オレのお母さんだよ!」
玲二が手を引いて連れてきた女性の姿を目にした黒斗は、思わず言葉を失った。
女性も同じく、黒斗を見て驚いたように目を大きく見開いて黙っている。
「あ、あれ? どしたの2人共」
謎の沈黙に戸惑う玲二。
数秒後、我に返った女性がビシッと黒斗を指さし、大声をあげた。
「つ、つ、月影くん!? 何で、貴方がここに!?」
静寂を破る騒々しい声に、黒斗も玲二も咄嗟に耳を塞いだ。
「……あんたの息子に、無理やり連れて来られたんだ」
耳を塞いだまま、無愛想に答える黒斗。
玲二の母親…それは何と、黒斗のクラスの担任教師、佐々木 のぞみだったのだ。
