玲二は絵を描くことが大好きな子供だった。
クレヨンや鉛筆を1度握ったらなかなか離さず、落書き帳いっぱいに絵を描いてばかりいた。
小学生になってからもそれは変わらず、外で遊ぶよりも、絵を描くことを好んだ。
ある日、玲二がピクニックの思い出として描いた絵を見た父親は、こう言った。
「絵が大好きなら、絵画教室に通ってみるか?」
父親の提案に玲二は二つ返事で頷き、絵画教室に通うようになる。
絵画教室を楽しむ玲二だったが、のんびりやで泣き虫な性格のせいか他の生徒達からは、からかわれたり、いじめをよく受けていたりして、友達と呼べる者はいなかった。
両親に心配をかけたくないが為、黙って耐えていた玲二を救ったのが、同じく教室に通っている洋介と有理だった。
気の良い2人は直ぐに玲二と仲良くなり、これがきっかけに3人でつるむようになったのだ。
教室では勿論、外で遊ぶ時も、絵を描く時も、3人はいつも一緒だった。
夢のように楽しくて幸せな日々。
だが、そんな平穏な日常は“ある事件”によって破壊された。
玲二が9歳だった時のこと。
コンクール用の絵を完成させるべく、玲二は教室が終わった後も1人残って、描いた絵に色を塗っていた。
玲二は特に色塗りの作業が好きである。
白黒の絵に鮮やかな色が塗られていき、“命”が吹き込まれていくような感覚が玲二には感じられたから。
無我夢中で絵筆を動かしていく玲二。
その時
ドスッ
鈍い音が耳に届くと同時に、腰と腹に違和感を覚えた。
「えっ…?」
奇妙な感覚を不思議に思い、視線を下に移す。
すると、自分の腹から赤い液体で濡れた刃先が飛び出ているのが見えた。
ズジュッ
「が……はぁ…」
刺されたのだと玲二が理解すると同時に、腰から腹部まで貫通していた刃物がいっきに引き抜かれる。
熱を帯びたように熱く痛む傷口から血が吹き出て、玲二は椅子から床に転がり落ちる。
「ハ……ハッ、ハッ…ハァ」
言葉では言い表せない激痛がはしる腹を、両手で必死に押さえる。
だが流れ出る血は止まらず、玲二を中心に赤い水溜まりがどんどん広がっていく。
「いた……いた、いよ、い、たいよぅ……」
出血している腹部を見やると、血で汚れている洋服と、血濡れた己の手と絵筆が目に入った。
(いたいよ、こわいよ、たすけて、だれかたすけて)
誰かが走り去っていく足音を聞きながら、玲二は意識を失った。
