「あと少しだから。動かないで日菜子ちゃんっ!」





「んんんーーーっ!」





成川さんの持つリップブラシが、ツツーッとと唇の上を這う。





動いちゃダメなのはわかってるけど、
くすぐったいものは仕方ない。





撮影現場につくと仮設の更衣室に案内されて、即効用意されていた服を着せられた。





そして、今は成川さんにお化粧をしてもらっている最中。





「やっぱり、女の子にメイクするのは楽しいわね〜♪」





嬉しそうに鼻歌を歌いながら、私のお化粧をしてくれる成川さん。





誰かにお化粧をしてもらうなんて、七五三の時にお姉さん気分で口紅を塗ってもらった以来だなあ…。






お肌もぷにぷによね。って、頬っぺたをツンツンされて、ビクッと体がビクつい
た。





そんな私を見てクスクス笑う成川さんは須崎凌の専属のヘアメイク担当でもあるわけで…


そんな人にお化粧してもらえるなんて、もう今後絶対ないくらいのラッキーなこと。





……だけど、

中身はおネェキャラでも、見た目は普通の男の人。





お化粧してもらってるから、仕方ないことなんだってわかってる。





けど、必然的に近づく顔になんだかドキドキして緊張して落ち着かなくて…





早く終わりますように。
と、何度も心の中で繰り返した。