朝起きると、体調はすっかり良くなっていた。
昨夜は歯磨きも口をゆすぐこともせずに寝たから、回診前に洗面所へ。
洗面所は、部屋を出て、少し歩いたところの廊下沿いに
ある。
歯ブラシとタオルを持って行き、顔を洗い、歯を磨き終わる。
「ふー」
朝って感じ!
スッキリした!
とそこに、
「何が『ふー』だ!」
ビクッ
とすると、そこには早川先生と、、、
鬼の佐藤。
もはや先生なんて呼びたくない。
あなたは館長を上回る程の鬼ですな。
なんて思いながら、鬼を無視して部屋に戻ろうとすると、
「ちゃんと聞きなさい。
昨夜、体調を崩してたんだから、回診前に部屋を出たらいかんだろーが!」
こんなところで怒らなくてもいいのに。
何事だろうかって、他の部屋の子が廊下に顔を覗かせてる。
昨日の院内学級の子もいる。
はぁ、せっかくの気持ちいい朝が。
と思い、俯いてると、突然腕を引っ張られ、鬼に腕を取られていた。
ドクン
イヤッ!
この感じ、
怖い。
足がすくみ、腕を引かれながら廊下に座り込んでしまった。
あぁ
なんでこう一瞬一瞬思い出すだろう。
スーッと涙が頬をつたうのが分かった。
「ヒッ、、、、
ハァッハァハァハァハァハァ」
呼吸が荒くなるのを感じた。
すると腕を捕んでいた鬼佐藤の手が、手首に変わり私の顔を覗き込む。
困った顔してる。
「大丈夫か?
ゆっくり
深呼吸。
吸入器は?」
と言われ、吸入器をどこかにやってしまっていたことを思い出した。
どこにやっちゃったんだろ。
「ハァハァハァ」
ヤバイ。ばれたらまた怒られる。
「ヒッハァ、ヒッハァ、ヒッ、ヒッ、ヒッ」
もうこのまま逃げるしかない。
と、次の瞬間、鬼佐藤の手から私の手を振りほどき、部屋とは反対に走った。
とにかく、走らなきゃと思いながら走った。
ガクンッ
すこし行くと、膝が折れ、前に滑るようにこけた。
バタッ
と廊下に倒れ込んでしまった。
ほんと、
こんな時に、
使えない体・・・
いつからこんなんになっちゃったんだろ、
入院してからだね。
と思うと、涙が止まらなかった。
走ったせいか、涙が止まらず呼吸も止まったせいか、どんどんと息ができず、胸ではなく顔が苦しくなるのが分かった。
鬼佐藤たちが近くにきて、何か言ってるけど、耳に入ってこない。
クッ
と息ができず、顔が痙攣したように動くのが、分かった。
私、
死ねるのかな。
視界は涙でよく見えないけど、
スローモーションのように感じた。
目の前にいる鬼佐藤が何か叫んで、
何やら器具で動かしてるけど、
それを私の手が自分の意思に従って、必死に抵抗してくれてる。
よくこんなに、
この状況で、
こんなに動かせるね。
って、我ながら驚く。
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私のお母さんって、どんな人だったんだろう。
お父さんってどんな人だったんだろう。
まだ生きてるのかな。
もし死んじゃってたら、これから会えるのかな。
なんて、真っ暗な暗闇の中で、頭に浮かんでいた。



