side.Y



桜が散っている。


思い出すのは、美沙の決意をあっさりと崩した、まだ桜が蕾だったあの時。


ベンチに座っていたのは、藤崎さくらという1つ上の綺麗な空気を纏った女の人。


その人が、美沙と槻倉先輩を依存させた毒の人。


あの人とあったあとの、定期診断。


美沙は頑なに拒否をしていた延命手術を自ら頼んだらしい。


彼女ともっと、居れる。


と嬉しく思ったのと同時に、毒なあの人に嫉妬した。


どんなに俺が言っても受け入れなかったのに、たった10分しか話していない彼女の言葉で変わった。


複雑だった。


美沙は俺は優しいと言ってる。


けれど、彼女が思うほど俺は優しくない。


一瞬。たった一瞬だけ。


あの時、ベンチに一人で彼女を行かせなかったら良かった。と思ってしまった。


彼女の中の1番は自分だけでいいと思ってしまった。


「橋本、くん、…………それ、ほんと、な、わけ…………。その、美沙は、」


病院の敷地についた車から出て、病院の中に向かいながら、朝霧先輩は言葉をつまらせた。


「覚悟がないなら、来なくていい」


早く。早く。彼女のもとへ。


優季、と聞き心地の良い声で呼んでくれる彼女のもとへ。


可愛くふんわり笑う初恋の彼女のもとへ。


最後に、もう一度。



“優季”と呼んで、笑って欲しい。




髪の毛は乱れたし、ネクタイだってぐちゃぐちゃだ。


走って、病院に入れば、視線は自然と集まる。


3人の男子高校生と、白衣を着た男が必死になって走ってる。


周りから見ると、とても滑稽。


けれど、そんなことを気にしている心の余裕なんてなかった。


美沙。美沙。





──『優季に依存してごめんね』







依存しているのは、彼女じゃなくて。


本当は、きっと俺だ。