side.Y
「美沙」
「何?」
「学校行ってくる。なんか、アイツらに言うことあるか?」
目の前の少女は、ベットに寝転びながら、気怠そうに体を伸ばした。
「うーん。はるるんに、ごめんって伝えといて」
彼女はあの変態な先輩に何をやらかしたんだ。
と少し不安になる。
「了解」
「ありがとう。行ってらっしゃい」
「おう」
まるで新婚ホヤホヤの夫婦の会話。
それが自惚れじゃなく、勘違いじゃないことを望もう。
勘違いだったら、恥ずかしくてマジで死ぬ。
「桜、綺麗だね」
彼女は、少しベットから身を乗り上げながら、窓の外を覗く。
窓の向こうには、桃色の花びらを散らす桜の木。
「そうだな」
否定する理由もなく、肯定する。
「1年かぁ……」
彼女は懐かしそうに呟いた。
彼女にとって、あの1年は濃くて短くて楽しい1年だっただろう。
「……バカするなよ」
「しないよ学年次席サン」
ニヤリ維持悪く口角を上げる彼女に、愛おしいという感情が流れ込む。
ここでそれを言ってしまえば、また彼女の中の物が壊れるだけなのだから、喉辺りで突っ返させる。
「もうお前がいないから、今年から俺が首席だ。俺の天下だっつの」
「どこぞの王様じゃ優季クン」
ケラケラと笑う彼女の瞳の奥には影がある。
俺はそれに気付いて気付かないフリ。
そろそろ、あの変態教師のところにいって、答えを言わなければ。
嫌なことも同時に思いだし、彼女を見て体力回復。
「んじゃ、いってくる」
「いってらっしゃーい」
彼女の伸び伸びとした声を聞きながら。
扉を横にスライドさせて、この部屋から1歩外に踏み出した。
春の風は、鬱陶しいほど清々しい。