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「こたつでミカンって、やっぱりいいね」
「ちゃんと皮は捨てろ。捨てないから、禁止にしたんだからな」
「へーへー」
ミカンの皮を数メートル離れたゴミ箱に向けて投げた。
「ナイッシュー」
「ナイッシューじゃないだろ」
「入ったんだからいいじゃん。しつこいなぁ。姑か夫か何者だコノヤロー」
「………ご飯出来た。テーブルに移動しろ」
あ、地味に無視された。
「……動きたくない。こたつで食べちゃだめなの?」
「だめに決まってんだろ。ほら、動け」
ほら、じゃねぇよ。
「やだ」
「動け」
「やだやだ」
「動けっつってんだろ」
「やだやだやだ。ドケチドケチ」
「動け」
「ほんとケチンボ。ハゲちまえ」
「ぶっ殺されたいのか?お前」
「いえっ、滅相もありませんッ」
音速にも達するかのスピードでこたつから出た。
あれ、やばいよ。ヤバめのブラック優季くん。
おそろしやー。
「般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経般若心経…いでっ」
「幽霊でも召喚する気か」
ブラック優季クンのお祓いしてたんですけどね!?
全然、祓えてないじゃん。
どうしたの。あたしの般若心経。
弱っちくなっちまってるよ。
「明日は滝修行だね」
「明日は学校だ。サボるな」
もうやだ。この人。むっちゃお母さんですけど。
「……そんなことより。お前、」
そんなことなのね。ブラック優季くんのお祓いはそんなことなのね。
あたしにとっちゃ重大問題なんだけどね。
「…何?」
「………本当に受けないのか?」
主語が抜けた文。
けれど、その主語は容易に予想できた。
「受けないよ」
「…何でだよ」
「だって、受ける意味もないもん。もう充分だし」
砂時計はもう引っくり返されている。
全ての砂が落ちるのを待つだけ。
気長に気長に、ゆっくりと。
「……分かった。悪かったな聞いて」
「別にいいよ。早く食べよ?不味くなっちゃうよ?」
……こんな話してたら。
「そうだな。冷めたら不味くなるよな」
「………………」
今夜のディナーは約束通りの洋食。
優季が作ってくれたから、美味しいに違いない。
「……冬休み、予定いれるなよ」
「うん。分かってる」
ため息をついてしまうようなとある冬の出来事。

