思い出したのは、お姉ちゃんに教えてもらったゲーテの『ファウスト』の中のファウストが言った言葉。
私には、難しくてよく分からなかった。
けど、なんとなく。雰囲気だけ、分かった気がする。
目の前にいる後ろ姿のお姉ちゃんと朝霧晴さん。
最後に。もう会えないから。もう会わないから。
──お姉ちゃんの幸せな姿を見させて。
この時間が、止まればいいのに。
お姉ちゃんが幸せだという“綺麗な時間”が、永遠に見れたらいいのに。
この瞬間に、私の中に溢れる気持ち。
感謝、家族愛、憧れ、尊敬、思い出。
幸せそうで、よかった。
「お姉ちゃん、ばいばい」
視界がぼやけいる。
針が、落ちる音がする。
私は、後ろ姿のお姉ちゃんと別れをした。

