懐かしい…。
その紙を開けると、緑色のボールペンで書かれている字が目に入る。
思い出すのは、綺麗なあの人。
儚げな、あの綺麗な人。
───『志貴くんはね、』
あなたにとっての、志貴先輩の大切さや重要さが痛いほど伝わってくる。
そして、志貴先輩がどれほど、さくらさんのことを想っているのかも分かる。
だって、桜の上で泣いてる彼を、あたしはずっと見て続けていたのだから。
さくらさんがいなくなっても世界は動き続ける。
志貴先輩も動かなければ、ならない。
けれど、彼は立ち止まったまま。
だから、彼女は彼を押してあげたかった。
「…………………」
あたしは、さくらさんの役に立てたのだろうか。
分からない。さっぱり分からない。
秋の入り口はもう見えている。
なら、もう秋の最後も見えてくる。
時間がない。もう時間がない。
出来なくてもいいから。あたしは出来るところまではしたい。
それがあたしの望みであって、さくらさんの望みだから。
クシャ、と紙が擦れる音がして、あたしは我に返る。
ルーズリーフの紙は少しシワを寄せていた。
「…何してんだろ、あたし」
引き出しにまた紙を入れて、鍵をかける。
今は志貴先輩とはるるんが訪問してくることだけを考えればいい。
何だかんだで掴んだこの生活の楽しさ。
楽しくやればいいんだ、程度をわきまえて。

