「……あの」
「……なんだ?」
こほん、と咳をしてから、私は言った。
「総務に戻ってもよろしいでしょうか?」
「……ここにいろ」
「で、でも、私にも仕事がっ……!」
「今も仕事中だろ」
ど、どこがっ!?
黒い革張りのソファの上。
社長は長い足を投げ出して、寝ながら書類に目を通していた。
……で。
どーして、毎度毎度、私が膝枕しなきゃならないの!?
これのどこが、仕事なわけ!?
はああ、とため息が漏れた。それを耳にしたのか、社長が上目使いに私を見た。
(う……下から覗き込まれるのって……は、恥ずかしいんだけど……っ!)
思わず、ちょっと視線をそらす。その時、社長が爆弾発言をした。
「今日から、お前の家に行く」
「えっ!?」
びっくりして、下を向く。社長と目が合う。頬が……赤くなるのが、判る。
「……いくら俺の家に来い、と言っても、お前は来ないからな」
当たり前ですっ!!
「だだ、だって、祖母が残した屋敷の手入れが必要だからって、言ったじゃないですか!!」
「だから、俺が行けばいいだろ?」
「どーして、そういう理屈になるんですかっ!!」
社長は私の膝から頭を起こし、両手を私の脇に置いて、こちらに向き合った。か、顔が近い……っ!
「俺が『俺のもの』を傍に置いて、何が悪い」
社長の瞳が不穏な光を宿した。
「……それとも部屋がないのか? 別に俺は同室でも構わないが」
構う。ものすごーく構いますっ!!
「へ、部屋はありますっ!!」
「なら、問題ないだろう」
私は悪あがき? をしてみた。
「う、うちは古い屋敷で、セキュリティなんか全然なんですよ!? 社長のご自宅なんて、超ハイテク高層マンションじゃないですかっ!」
「……機械はなくても、魔法はあるんだろ?」
「うっ……」
確かに、魔法の力でのセキュリティ? は万全だ。
(まあ……『幽霊屋敷』とあだ名付けられてるくらい、古ーいから、人も近寄らないんだけど……)
社長は、また私の膝に頭を乗せ、書類を横に置いて、目を瞑った。
「……今夜も屋上行くぞ」
そう言った後、すうっと身体の力を抜いたのが分かった。
……もう、寝息立ててる。
はあああ、と再び深ーいため息が漏れた。
……魔女だってばれてから、毎日のように呼び出されては、膝枕、の日々。
大体三十分ぐらい寝たら、お役御免になるんだけど……単なる一社員(しかも地味~な総務部の下っ端社員)が社長直々に呼ばれるんだから、目立って仕方がない。
周りから、好奇心の目で見られるし、社長狙いの女性社員から嫌み言われたりもするし、本当、疫病神だわっ、この人!
(総務メンバーが温かく見守ってくれてるから、何とかなってるけど……)
チームリーダーの田中さんからも、『大変ねえ……』と深く同情されてるし……。
……っていうか、膝枕ぐらい恋人にしてもらえばいいのに。すごい美人を連れてるの、見た事あるし。どうして、私!?
(魔女だっていうのが、珍しいのかしら……)
ふと寝顔を見る。長い睫毛。安心したような表情。いつもの鋭さはない。
(……こうやって、寝てたら、かわいいのに)
あ、だめだめ、情けをかけちゃ、敵の思うつぼだわっ!
私はぶんぶんと首を振った。
――結局、社長が目を覚ますまで、あと三十分、膝を独占されたままだった……。
「……なんだ?」
こほん、と咳をしてから、私は言った。
「総務に戻ってもよろしいでしょうか?」
「……ここにいろ」
「で、でも、私にも仕事がっ……!」
「今も仕事中だろ」
ど、どこがっ!?
黒い革張りのソファの上。
社長は長い足を投げ出して、寝ながら書類に目を通していた。
……で。
どーして、毎度毎度、私が膝枕しなきゃならないの!?
これのどこが、仕事なわけ!?
はああ、とため息が漏れた。それを耳にしたのか、社長が上目使いに私を見た。
(う……下から覗き込まれるのって……は、恥ずかしいんだけど……っ!)
思わず、ちょっと視線をそらす。その時、社長が爆弾発言をした。
「今日から、お前の家に行く」
「えっ!?」
びっくりして、下を向く。社長と目が合う。頬が……赤くなるのが、判る。
「……いくら俺の家に来い、と言っても、お前は来ないからな」
当たり前ですっ!!
「だだ、だって、祖母が残した屋敷の手入れが必要だからって、言ったじゃないですか!!」
「だから、俺が行けばいいだろ?」
「どーして、そういう理屈になるんですかっ!!」
社長は私の膝から頭を起こし、両手を私の脇に置いて、こちらに向き合った。か、顔が近い……っ!
「俺が『俺のもの』を傍に置いて、何が悪い」
社長の瞳が不穏な光を宿した。
「……それとも部屋がないのか? 別に俺は同室でも構わないが」
構う。ものすごーく構いますっ!!
「へ、部屋はありますっ!!」
「なら、問題ないだろう」
私は悪あがき? をしてみた。
「う、うちは古い屋敷で、セキュリティなんか全然なんですよ!? 社長のご自宅なんて、超ハイテク高層マンションじゃないですかっ!」
「……機械はなくても、魔法はあるんだろ?」
「うっ……」
確かに、魔法の力でのセキュリティ? は万全だ。
(まあ……『幽霊屋敷』とあだ名付けられてるくらい、古ーいから、人も近寄らないんだけど……)
社長は、また私の膝に頭を乗せ、書類を横に置いて、目を瞑った。
「……今夜も屋上行くぞ」
そう言った後、すうっと身体の力を抜いたのが分かった。
……もう、寝息立ててる。
はあああ、と再び深ーいため息が漏れた。
……魔女だってばれてから、毎日のように呼び出されては、膝枕、の日々。
大体三十分ぐらい寝たら、お役御免になるんだけど……単なる一社員(しかも地味~な総務部の下っ端社員)が社長直々に呼ばれるんだから、目立って仕方がない。
周りから、好奇心の目で見られるし、社長狙いの女性社員から嫌み言われたりもするし、本当、疫病神だわっ、この人!
(総務メンバーが温かく見守ってくれてるから、何とかなってるけど……)
チームリーダーの田中さんからも、『大変ねえ……』と深く同情されてるし……。
……っていうか、膝枕ぐらい恋人にしてもらえばいいのに。すごい美人を連れてるの、見た事あるし。どうして、私!?
(魔女だっていうのが、珍しいのかしら……)
ふと寝顔を見る。長い睫毛。安心したような表情。いつもの鋭さはない。
(……こうやって、寝てたら、かわいいのに)
あ、だめだめ、情けをかけちゃ、敵の思うつぼだわっ!
私はぶんぶんと首を振った。
――結局、社長が目を覚ますまで、あと三十分、膝を独占されたままだった……。
