消防隊が到着した時には、炎は消えていた。
 ……皮肉にも、一階で起きた爆発の風が、炎を全て吹き飛ばしていた。
 
 俺は目の前、の光景に愕然としていた。

 ……一階と二階は、全焼。鉄筋の骨組だけになっていた。他の階もガラスが吹き飛び、ほぼ全壊に近かった。

 全身の力が抜けた。思わず膝をつく。
 駆け付けた消防隊員が、確認するためにビルだった場所に入っていくのを、ただ、見ていた。

「内……村……さんっ……!」
 伶子の口から、嗚咽が漏れる。
「美月……さん……」
 総務部の……田中……。

「……社員は、

 ……内村さん以外、全員、無事……です……」

 泣き出しそうな声。

 あいつ……何やってるんだ……

『私が、あなたを、守るから』

 ……そう、言った。そして、その通りにした。
 だが……。

「……っ!」
 アスファルトの地面に、両手を叩きつけた。
「……あの、大馬鹿野郎!!」

 俺だけ……守って……

「俺を……守って……も……」

「お前が……いなくなるんじゃ……」


「……何の意味も、ないだろうがっ!!」

「和也……っ」
 伶子が俺の肩に手を置く。そうされるまで、自分が泣いてる事にも気がつかなかった。
「楓……楓……っ!」
 ただ、名前を呼んだ。

 ……その声に応える者は、誰もいなかった。

 

 

 唇を噛み、俯いたままだった俺の耳に――消防隊員の叫び声が入ってきた。

「おい、担架っ! 生存者確保っ!!」

(……生存者!?) 

 俺は、咄嗟に立ちあがって声の方へ駆けだした。消防隊員の制止も振り切って、焼けただれたビルの跡に入る。
 
 ――まだ熱を持ったがれきの中……消防隊員に抱えられた、すすだらけの……楓、がいた。