「ごめんね、遅くなって」
 トレイにマグカップ2つ。部屋の真ん中のテーブルに置いた。

 ベッドに寝ていたあの子は、身体を起こして、足を床に下ろした。
 ……パジャマに着替えたんだ。バスローブがベッドの足もとに、ちゃんと畳んで置いてあった。

「……はい。魔法のスープよ」
 湯気の立つマグカップを、彼に渡す。私もマグカップを片手に、彼の隣に腰を下ろした。
「……いただきます」
 私がお辞儀すると、彼も頭を下げた。
 一口、マグカップに口をつけた男の子は、驚いたように目を見張った。
「……おいしいでしょう?」
 私も、こくん、とスープを飲む。身体の隅々まで、月の光で満たされるのが、分かる。
「どんなに元気がない時でも、これを飲むと元気になるの。月の魔力が入ってるのよ」

 スープをかき混ぜながら、魔法の呪文を唱えた。お鍋から、湯気と共に魔法がキッチンに広がった。
 ……少しは、温かくなったかな、あのキッチン。

 黙ってスープを二人で飲んだ。
 おばあちゃんのスープ、効果絶大……。
 あんなに弱っていた力が、ゆっくりだけど回復してる。新月なのに。

「……ごちそうさまでした」
 マグカップをテーブルに戻す。
 ふと……隣を見ると、男の子が半分ぐらいスープを飲んで、じっと固まっていた。
「……どうしたの?」
 声をかける。
 ぽたり……彼のマグカップを持った手に、何か、が落ちた。

 ……涙?

 そっと、彼の手からマグカップを受け取り、テーブルに置いた。彼は、じっとしたまま、だった。
 ……私は男の子の傍に行き、ぎゅっと抱きしめた。
「……悲しかったら、泣いてもいいのよ?」
 ぴくり、と肩が動いた。
「我慢、してたんでしょ?」
「……」
「大丈夫……。だから、自分の気持ちを隠さないで」

「……っ!」
 男の子がいきなり、私に抱きついてきた。
 ……声にならない、嗚咽が漏れる。震える小さな肩。身体に合わないぐらい、強い力。
 そっと頬ずりする。涙の感触がした。
「……大丈夫よ。あなたは、私が守るから」
「……」

 心に溜まっていたものを、全部出すように、そのまま彼は泣き続けた……。