「……炎!?」

 発煙筒じゃない……どこからか、燃える匂いがしてる!? 窓の外に、オレンジ色がちろちろと見えた。
 和也さん、冷や汗かいて……何とか、意識を保とうとしてくれてる……けど……

 右手を振りかざして、風に命じた。
「……風よ、道を!」
 つむじ風が巻き起こり、煙を吹き飛ばした。
 ……でも、すぐに灰色の渦が戻って来る。
「……っ、力が弱い……!」
(満月だったらっ……全部消し去れるのにっ……!)
 
「和也さん、非常階段から逃げますよ」
「……」
 黙ったまま、和也さんが頷いた。

 非常階段の扉を開ける。
「……っ!!」
 熱風が下から吹き上がっていた。下の階から出火してるっ……。

「水の精霊、ウンディーネよ、この手に集え!」
 壁にひびが入り、水が噴き出る。伸ばした右手の上に、ボーリング球ぐらいの大きさの、水の玉ができる。
「和也さん、これをっ」
 ――ばしゃん!
玉が割れる。和也さんと私がびしょ濡れになった。
「しっかり、つかまっていて下さいねっ!」
 和也さんの腰あたりに手を回し、ぎゅっと抱きつく。和也さんも両手を私に回す。

 キィィィィ……ン……

「……っ!」
 一瞬顔をしかめた。頭に何かが走る。
 新月。一番魔力が弱まる時。

(力……が、でな……い……)

 唇を噛む。絶対……守ってみせる……!

 私は、風の精霊に祈った。
「シルフィード、私たちを下へ!」
 つむじ風が巻き起こる。風が熱を吹き飛ばす。

 ……私は和也さんと一緒に、階段の一番上から飛び降りた。