蟻の染み【短編ミステリー】



私は健吾さんに抱きついた。


「ふっ、うわぁぁんっ!健吾さんっ!健吾さんっ!」


「麻菜ちゃん…。」


健吾さんは私を力強く抱き締めてくれた。


そして、目があった。


次の瞬間。


健吾さんの切れ長の目に捕らえられてしばらく見つめあっていた。



そして、互いの顔が近づいた…。


ああ。キスするんだな。


そう思った。



「ただいまーっ!健吾ー!健吾の好きなチョコかっ、て、き…。な、なにしてんのよっ!」


お姉ちゃんだ。


私と健吾さんは抱き締めあったまま顔をお姉ちゃんに向けた。


「…舞。ごめん。僕、麻菜ちゃんの事が好きなんだ…。だから、別れて?」


「や、よ。いやよっ!なんで!?なんで麻菜なんかのことなんかっ!やだっ!嘘でしょ?嘘っていってよ!」


なんか、妙に冷静だ。私…。

っていうか、お姉ちゃんがバカにみえる。


「お姉ちゃん。現実だよ。私さ、前バイト先の先輩が好きになったっていったじゃん?」


徐々にお姉ちゃんの目が見開く。


「ま、さか。」


「その先輩が健吾さんなんだ。」


-チュッ



大きなリップ音をたてて、私と健吾さんはキスをした―――――――――――