蟻の染み【短編ミステリー】



「よしっ!おわりっと!」


雑巾がけに夢中でいつの間にか夕方になっていた。


「お母さん?お姉ちゃん?」


お母さんもお姉ちゃんもいない。

どこいったんだろ?


「お母さんと舞はスーパーに買い物にいったよ。麻菜ちゃん。こんにちは。」


「け、健吾さんっ!」


急に声をかけられ、後ろを向くと健吾さんがいた。


「そ、そうだったんですか。声掛けてくれればよかったのに。いつきたんですか?」


「んーとね。一時間くらい前かな。ごめんね。声かけようと思ったんだけど、掃除に夢中な麻菜ちゃんが可愛くて、つい。」


か、可愛いって!

思いもよらない言葉に顔を赤くしてしまう。


実は私はお姉ちゃんよりも前から健吾さんの事を知っていたし、好きだった。

私のバイト先の先輩だった。もう、私はやめちゃったけど。

優しくて、かっこよくて、なんでもできる健吾さんが私は大好きだった。