『…ニイちゃんのとこへ行く!』


病院へ行こうとするオレをカヨコが止めた。


『爽真は死んじゃったんだよ!…だから病院へ行っても会えないの…!』


真っ赤な目をしてオレに言い聞かせた。
ミドリもツヨシも、小さな箱の側から離れなかった。



『…ウソだ!ニイちゃんは良くなるって言ってた!一緒に学校へ行こうって、ゆびきりもした!』


泣き叫ぶオレの姿に、大人達は喉を詰まらせた。

特にミドリの泣き声は大きくて、泣きながら兄貴に謝ってた。



『ゴメンね…!ママがもっと…丈夫な身体に産んであげれば良かったね…!』



ツヨシの大きな手が、ミドリの背中を何度も何度もさすってた。

葬式の記憶なんてない。
でも、その時のミドリの泣き声と、ツヨシの大きな手の動きだけは覚えてる。


……それからあの日、兄貴に頼まれて会いに行った、『きのした はるな』の顔もーーーー

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あいつは呑気そうに空を仰いでた。

兄貴じゃなくオレだったのに、全く気づきもしなかった。


『そうちゃん!』


大きな声で呼んで、手を振り上げた。嬉しそうな顔をして、ほっぺを輝かせて。

キラキラした目でオレを見て、ニッコリと笑ってくれた。



ーーーー その嬉しそうな笑顔を、兄貴に届けたい……と、そう思った。


だから、精一杯願った。



『退院しても…また会いに来て…!』