女医さんの名前は、鳥井(とりい)センセイって言った。
鳥井センセイは、私が子供の頃に入院した時の担当医だった。

10年ぶりに受診に行った時、「もしかして、あの時の子…?」と驚かれた。



「……懐かしいわね。元気そうで良かった……」


研修医をしてたセンセイは、10年後、外科の先生になってた。


「…あの頃のあなた、子供らしくなくて不愛想で、可愛くなかったわ〜」


思い出して笑う。
たった6歳かそこら。
病気で入院してるのに、両親は私のことなんて、殆ど構いもしなかった。


「あなたの病室に、しょっちゅう出入りしてた子…そうちゃん…って言ったわよね。憶えてる?」
「はい…覚えてます…」


懐かしい響き。
数日前、その名を呼んだ彼のことを思い出した。


「あなたが退院した後、急に容態が悪くなって、亡くなってしまったの…。あなたのこと、ずっと気にかけてたわ。『元気でいるかな…。また、会いたいな…』って…」


胸が熱くなる。
そうや君が話してくれた以上に、そうちゃんのことを身近に感じた。


「私…今、その人の弟さんと、同じ高校に通ってるんです…」


そうや君から聞いた話をセンセイに伝えた。
センセイは頷きながら、「そうだったわね…」と、涙ぐんだ。


「…いつも頑張り屋さんで、ガマン強くて…皆のことを、楽しく明るくさせようとして、必死だったわね…」


難しいクランケで、研修医の自分には担当させてもらえなかった。
その点、私は病気が軽くて、自分にはもってこいの対象だった…と笑った。


「でも…今の状態は、あまり良くないわ……もしかすると、何か病気が隠れてるのかも…」


鳥井センセイの言葉にドキン…!と胸が鳴った。
直ぐにでも退院して、皆のいるあの学園に戻りたい…と叫びたくなったーーーーー