はやく
はやく走らないと
『あいつ』に見つかる。
はやく隠れないと捕まる。
捕まって殺される。
私は何もしていない。
恨みを買うようなことはしていない。
私はただ……
ただ見てしまっただけなんだ。

ぐん、と前につんのめる。
視界が反転し、身体に衝撃が走る。
夜の公園は人気がなく、不気味なくらい静まりかえっていた。
痛みに声を漏らしながらも起き上がろうとする、が……上から強い力で押さえつけられた。無理矢理仰向けにさせられ、私の上の男は片膝で私の左手、空いた片足で私の右手を踏みつけた。
男の右手にはナイフが握られている。
殺さないでと叫ぼうとした私の口を男の左手が塞いだ。
直後、ナイフが私の腹部に振り下ろされた。

このまま死ぬのは嫌だった。
男の力が緩んだ時、隙をついて男を押し倒した。男の手から滑り落ちたナイフを見た瞬間、一瞬頭がクリアになった。
私はナイフを男の腹に何度も突き刺した。
許さない許さない許さない

男が私を押しのけ、私は再び仰向けに倒れた。
荒い呼吸をしながら男は這って私から離れていくが、途中で動きを止めて私を見た。少しの間私を睨みつけていた男だったがやがて狂ったように笑い出した。
そして仰向けに転がり、痙攣した。

それが私が最後に見た光景。