それだけの景色
何気ない日常
なのに
その日の私は
少し違っていた
なんだかお腹のあたりが
ぎゅっとなって
自分の中に入ってこない
本当は小刻みに手が震えている
突然の出来事に
気持ちがついていけてないのだ
そのひんやりとした不安が
喉の奥にポトリと落ちて
消えずに氷のように
固まって
とどまり続けた
女の子の投げたビーが
さっきからこちらに飛んでくる
駄目だ
多分涙が出る
場所を変えよう
公園の真ん中にある塔を
目指して歩く
塔に向かって伸びる道を
ゆっくり景色を見ながら歩く
雪柳の生垣
甘い香りをまき散らしている
小さな芽をつけた木々
優しい風
公園の隅なのだろうか
小さな広場に出た
背の高い木々に囲まれた
その向こうに塔が見える
木の下にベンチがあったので
腰を下ろした
無性に誰かの声が聞きたくなった
ハルの電話を呼び出した
この時間は多分出ない
いいや
出なければメッセージを入れておこう
呼び出す音がして
呼び出し音が鳴る
不意に呼び出し音が途切れた
「もしもし」
ハルだった
嬉しいのに
自分の中の悲しみが
自分を冷静にさせた
「私、元気?」
「知ってる
どうしたの
なんかあった?」
心配そうな
その声が
ポトリと落ちた
不安を溶かした
溶けた不安は
涙になった
心配してくれていたんだ
そう思うだけで
暖かいものが
胸に広がって
暖めてくれる
多分それは
あなただから出来ることだ

