一ノ瀬さん家の家庭事情。

「愛、夕飯の用意は俺も手伝うから、とりあえず手洗って仏壇行ってきな?」

優兄はやっぱり優しいなぁ。

ほんと、あたしにとって天使だよ。

「ありがとっ!優兄!」

あたしは洗面所で手を洗うと、和室の扉をあけてお仏壇の前に座った。

「ママ、唯ちゃん、暁君、ただいま!」

これはあたしたち兄弟の日課。

どんなに急いでいても、朝家を出る時と、外から帰ってきたとき、こうしてお仏壇の前でお話する。

お仏壇の写真にはママと、そして交通事故のとき一緒にいて亡くなった、ママの妹夫婦の唯ちゃんと暁君夫婦の写真。

暁君と唯ちゃんはまだ二十歳だったそうだ。

唯ちゃんはママそっくりのかわいい笑顔でいつも笑ってる。

「暁君、唯ちゃん、そしてママ、何卒何卒、あたしに自由の日々を!」

そしてこれは毎日お願いすること。

あたしのあの邪悪なブラザーズから開放されて楽しい青春の日々を送ること。

それだけが15歳少女の切実な願いなのです。