あたしは手を出しもせず、眉間に皺をよせたまま固まっていた。
「すっげー顔!!そんなに嫌?」
「嫌」
「即答かよ」
別に怒ったりもせず、咲夜はただ笑うだけだった。
太陽みたいに笑う人だな、と思った。
そう思ったと同時にパッと顔をあげた。
木の葉の隙間から見える太陽は、起きて見た位置より高く昇っていた。
おばあちゃんに何も言わずに家を飛び出して、きっとおばあちゃんはあたしを探してるだろう。心配してくれてるだろう。
なんであたしはこうも迷惑しかかけれないんだろう。
あたしは咄嗟に足に力を入れ立った。
その急な行動に咲夜は少し驚いた。
「どうした?」
不思議そうにパッチリとした丸っこい瞳であたしを見つめる。
「……帰る」
そう一言呟いて森の中に足を進めた。
……けど。
「あれ……どっちだろう……」
案の定道が全くわからなかった。
がむしゃらに走って、どこかもわからない森の中にいたんだから。
……どうしよう。
サッと血の気が引いて、戻れないんじゃないかって焦った。
後先考えずに行動した自分の行いに反省した。
どうしようどうしようと、立ち止まっていると。
「なになに迷子?」
咲夜が後ろから声をかけてきた。
半分面白がっているような声で。
「……別に」
「どう見ても迷子だろ」
「関係ないじゃん」
「道、教えよっか?」
咲夜はあたしの隣に並んで顔を覗き込んできた。
咲夜のツンツンした茶色っぽい髪の毛を少し揺れた。
なんでこの人は。
こんなあたしに構ってくるの。
「教えるよ。ほら、家どこ」
「え、ちょっ……」
有無を言わさず、強引に手を握ってきた。
初夏にも関わらず、咲夜の手はヒンヤリとしていて気持ちよかった。
でも、この手を振り払わなければ。
関わっちゃいけない。
そう思うのに、ただ咲夜に引っ張られるままのあたし。
家をどこだともまだ伝えてないのに、ズカズカと森の中を進んでいく。
「そーいえば、琉亜はココに来たばっかり?」
ふと思い出したかの様に、咲夜は顔をコッチに向けた。
「……うん」
ボソっとそう答えると咲夜はニコッと笑う。
「てか何歳?」
「……10」
「おー!!同い年だな!!学校つってもココは1個しかないし同じクラスかもな」
「……」
ベラベラと色々話しかけてくる咲夜とはまだ手を握ったまま。
……あたし、矛盾してる。
人と関わりたくないと思っているのに。
この人ともっと話したいとか思ってる。
さっきまで泣いてたのに。
さっきまで向こうに行って欲しいと思ってたのに。
手も、振りほどけないなんて。
