「ねえ、お前名前は?」
男の子の瞳は、この空気の様に澄んでいた。
反対にあたしの瞳は、どんよりとくすんでいる。
「なんで教えなきゃいけないの」
冷たい態度をとっても男の子は何もきにせずといったように、ジッとあたしを見つめる。
綺麗な顔で、こっちを見てくる。
きっとこの男の子は心も澄んでるんだろう。
「んー、知りたいから?あ、俺は咲夜ね」
聞いてもいないのに、名乗ってくる。
顔だけを、男の子……咲夜に向けていたあたしは、フイっと目を森の奥へと逸らした。
「……どうでもいい。もう本当あたしに関わらないで」
涙はいつの間にか止まっていて。
もう、人と関わりたくないんだ。
もう、大切な人を失う苦しさを感じたくないんだ。
「名前くらいいーじゃん」
しつこく食い下がる咲夜はずっとコッチを見ている。
チラっと咲夜の方に目を向けた。
「……琉亜」
そうあたしが名乗ると、咲夜は嬉しそうに微笑んだ。
余りにも綺麗なその表情に、ほんの少し、胸が高鳴った。
「るあ、か。よろしくな」
笑みを湛えたまま、咲夜はあたしに手を差し出した。
でもあたしはその手を見つめるだけ。
どうしたらいいんだろう。
全部ぜんぶ。
どうしたらいい?
