だいぶ森を進んで、やっと一軒家の並びが見えてきた。
「家、どこ?」
咲夜はずっと手をつないだまま、私に問いかけた。
冷たかった咲夜の手は、あたしの熱であったかくなっている。
「たぶん、右側」
「右側って…」
だってよくわからないんだもん。
確か右側あたりだった気がする。
昨日きたばかりで。しかも気持ちはそれどころじゃなかったから。
呆れた感じでこっちを見てくる咲夜を、あたしは一瞥した。
「……後は一人で帰れるから。ありがとう」
なんとなく歩いていけば辿り着くだろう。
そう思って握っていた手をやんわりと解こうとした。
けど。
「……手、離してよ」
「……」
何故か手を離してくれない。
あたしの瞳をジッと見て。
なんだろうと思っていると不意に、握っている手が強く握られた。
「なに」
「もう、泣くなよ」
そう言ってクイッと腕を引っ張られた。
えっ、と思った時にはもう既に。
咲夜の唇があたしの頬に触れていた。
「……っ!?」
意味が分からず瞬きするのも忘れて、呆然と咲夜を見ることしかできなかった。
「おまじない」
「……っなん…!?」
「もう、泣かなくて済むように」
今日出会ったばっかりの人にほっぺたにキスされて。
それを咲夜はあたしが泣かないためのおまじないと言った。
それに、完全に拒否できなかった自分もいた。
「じゃあ、またね」
スルリと手を解き、咲夜は向こうに向かって駆け出した。
あたしの頭は混乱していた。
ただただ呆然と咲夜の去っていった向こうを見つめていた。
