「そーいや、久々にお前の姉ちゃん見たけどやっぱ美人だよなぁ~」



そりゃそーだ
あの日はたまたま休みだったんだ
俺が小4の時にはもう働いていて、それぐらいからきっとコイツは会っていない。
俺だってあの頃は夜遅くにしか会えなかったんだ


あの頃から“あの人は”滅多に家に帰らなくなってだから俺が一人で留守番できるようになった









「…姉貴に手ぇ出すなよ。」

コイツは動物並みの性の持ち主だ

姉ちゃんの浮いた話なんて一度も聞いたことねーが(聞きたくもネーが)…コイツに誑かされる姉ちゃんが一番みたくねぇ


「おー、怖い怖い。お前の姉ちゃんは美人だけど俺、年上は無理だわぁ~」

「は?人の姉をババァみたく言うなよ」

「そこまでは言ってないだろぉ。でもほら5歳ぐらい離れてるじゃん?」

「…9歳だよ」

「…」


なんで黙んだよ。


年下なんてうるさいだけ
タメなんてうるさいだけ
とりあえず女はうるさいだけ
姉ちゃん意外の女はみんな
仮面をぶら下げてるんだ。






喚いて

騒いで

嘆いて

狂って



ほら“あの人”のように



女はみんなそうなるんだ。









「あーおー?」




逆走するように
“あの人”の記憶が蘇る

誰かの声が聞こえた

『青色なんてだいきらい』、だと。


誰が言ったかなんて忘れたけど
俺はいつもその言葉に傷つく






「おい。青っ!」

二度目の朔の声でようやく現実に戻る

「もう、つくぞぉ」

「お、ぅ。」




ぼーっとした俺に
眉をひそめる左隣。
だけど何も聞かない
それがコイツの優しさであり、
コイツの境界線。



俺はそれが楽で
それが寂しい。





けど何も言わない



知らなくていいことを、わざわざ知ろうとは思わない
目を合わせたって殴られるだけだ
なら、目を逸らしていた方がいい



俺は大きく深呼吸をして




小さな記憶に蓋をした。