いつのまにか部屋は
弟の泣き声だけになっていた




そんな悲しい音色が
あたしの子守唄には丁度いい
あぁ、このまま覚めなければいい。





「おねぇ、ちゃ」


閉じかけた瞳を開いて
あたしの名を呼ぶ青に
こたえるように笑顔を向ける


そうね、この子がいる
青が大きくなるまでは、
青が強くなるまでは、
あたしは夢を見ちゃいけない。




へいき、
この子が笑えるなら



へいきよ。




「大丈夫よ。平気よ。」

まだ、笑える






「おねぇちゃんはね青い色がすきよ。青が大好きよ。」

あぁこの涙に色をつけてしまって
簡単には流せないような色にしてしまって


悲しみを青に変えないで与えないで。





「大好き、愛してる」

「ぉねぇちゃ、ん」

「大丈夫、大好き。平気よ、愛してる。」

「う、ん、?」

「青は桃(もも)姉ちゃんのこと好き?」


その一言にやっと笑う小さな花。
当たり前のように水をあげましょう
この花にずっとずっと当たり前のようにあたしか愛してあげましょう

あんな母親を求めずにいられるように、
あたしが



「うん!だいすきだよ!あのね、ぼくね桃お姉ちゃんがね、いちばんすきだよ。それでねお母さんがねその次にす、」

ぎゅっ、
思いっきり抱きしめる

彼が次の言葉を発する前に。



もういいの
もう言わなくていいの

あの人を愛したところで
愛なんてかえってこない。
あの人を愛さなくていいの
愛さなくたってあたしが
代わりにいくらでも愛してあげるから。




「く、るし」

「あ、ごめっ」

こぼれ落ちてしまった涙を拭いながら慌ててはなす


「あのね、」

小さな手であたしの頬を伝う涙を追いかけ拭いながら言う


「あのね、ぼくね、桃色もすき。桃色はねみんな好きなんだ。ゆいちゃんもけんたくんもいい色だって言ってたよ。桃色はねみんな好きな色なんだ、だからね大丈夫だよ。」

きっと小さな手ではあたしの溢れ出る涙を拭いきれやしないだろうに
一生懸命こぼさないように、同じように愛をくれる彼を守ると…


神様誓います。